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シカゴからダイレクトにお届けする、知られざる黒人文化あれこれ。

Category: 知られざるブラックカルチャー
ステレオタイプ
「黒人は皆、歌がうまい」「リズム感がある」なんて思っている人も多いのではないであろうか?
こう信じているのは、別に日本人に限った事では無い。
黒人以外のアメリカ人たちも、それらは「黒人誰しもの才能」だと信じている人が多い。

歌って踊ってすごいステージを見せてくれるのは、マイケル・ジャクソンに限った事でない。
ジャズのトランぺッターなのにいい声で歌っちゃうし、ブルースのギタリストだって歌で観客を酔わせちゃう。
なんでもござれ、といった黒人ミュージシャンたち。
そのリズム感といい、歌唱力といい。。。。そういう物を持って生まれてこなかった身としては、ひれ伏すしかない。

だが、そんな黒人ミュージシャンたちのおかげで、被害を被っている黒人たちも多い。
それは、音痴、あるいはリズム感無しの黒人たち。
笑えない。。。結構多いんだから。

私だって昔、アメリカに住む前は、「黒人は皆、歌が上手い」って思っていた。
だって、テレビで歌っている黒人は、全員ずば抜けているから。
日本人なら下手くそでも、「プロの歌手」になれてしまうのだけれど。

学生時代、シカゴのアメリカンカラオケバーでウェイトレスのバイトをしていた時、同僚にすっごい黒人美人姉妹が居た。
二人ともモデルで、蜘蛛のように長い足に膝上ロングブーツなんて履いてくるものだから、お客さんから時に「一緒にデュエットして~」と依頼が来る。
妹のアリーシャは歌が好きと見えて、デュエット相手が必要な曲には、いつも快くステージに上がっていた。
よく知らない曲でも、適当にリズムに合わせ、歌いこなしてしまう彼女。
美しいソプラノ。
お客さんからは拍手の嵐。

ところが、妹が歌っているというのに、姉のマリアンはじーっと見ている。
一緒に歌えばいいのに。
二人がステージに上がれば、さぞかし華やかなことだろうに。
そう勧めても、マリアンは絶対に動かない。
てこのように動かない。
「私は歌わないのっ!!」断固拒否の姿勢なのである。

ある時、店が終わってから、店員たちが勝手にカラオケで歌い始めた。
メキシカンのミゲールが、「マリアン! いつも歌わないから、一緒に歌おう!」と誘った。
最初は断っていたが、仕事でないし、緊張が解けたのか、マリアンがマイクを持つ。
おお~!! 歌うのか!! マリアン!!

ところが。。。漏れて来た音は、はるか音符からはかけ離れていて。。。
音が外れているだけでなく、リズム感が。。。無い。
声もよくない。
なんだか綺麗な容姿なだけに、見てはいけないものを見てしまった気がした。

マリアンは歌えないのだが、踊りは上手かった。
一緒にクラブによく行ったが、華麗なるステップを踏んでいた。
ダンスのリズム感と歌の上手さは、そりゃあ全然違う物だろう。
だけど「黒人だったら両方上手いだろー」って思われてしまうのは、やはり可哀想なのであった。

クラブで見る限りの黒人は皆、踊りが好きで来ている連中なので、「ダンスがすこぶる上手い」のは当然なのだ。
そこで「黒人は皆ダンスが上手い」と思っては早合点し過ぎ。
クラブなんかでとてもダンスを公にお披露目出来ない黒人だって、わんさか居るのである。

夫の同級生のベンジャミンは麻酔科医だが、副業でダンススタジオを開いて講師をしている。
ダンスの才能はピカ一で、医者になろうかダンサーになろうか、大学時代に真面目に悩んだ人である。
ベンジャミンと一緒にクラブに行くと、フロアに居る全員の視線がベンジャミンに向けられ、ベンジャミンの周りは空間が出来る、夫は言っていた。
だけど、「気の毒な程、ベンジャミンは音痴なんだよ」と夫は言う。
歌えないダンサーは、ブロードウェイは目指せない。
医者になって正解だったであろう。

「ブラックなんだから歌えるでしょー?」と言うのは、「アジア人なんだから数学得意でしょー?」って言われるのと同じだよ、と夫は言う。
そう、アジア人のステレオタイプなイメージ。。。。「理数系科目が得意」。
数学に関しては、アメリカのレベルが低すぎるってのもあるのだが。
「数学得意よね?」と言われて、困る日本人も中国人も多いはず。

しかし、黒人に歌が上手い人が「多い」のは事実であろう。
歌の上手い確率というのか。
それからリズム感がある人が「多い」というのも事実。
ものすごい音痴も居る事は忘れてはいけないが。
上手い人のレベルがすごく高いから、音痴が余計に際立ってしまうのか。

シカゴの夫の親戚一同集まるファミリーディナーでは、いきなり誰かが歌い始めて、皆がそれに合わせて歌を続ける。。。というシーンがよくある。
義理ママを始め、教会のゴスペルで鍛えた喉の持ち主が沢山居る。
音程をはずして足をひっぱるおじさんとかおばさんとか、皆無なのである。
全員で綺麗にはもるのだ。
誰かがメロディーラインを歌うと、他の人は適当に高音、低音でアレンジして色をつける。

これを日本の我が親戚一同でやったらどうなるだろう?と想像すると、ちょっと恐ろしい。
幼い姪っ子と一緒に歌を歌っていた時、義理の妹に「お義姉さん、歌が上手いですよね」と言われたことがある。
私で「上手い」と言われてしまう事実を、夫にはとても言えない。
いや、実はその事実を言った。
じーっと私の顔を見て、彼はため息を一つだけついた。
その「ため息」は通訳すると、「日本人って信じられない」って言っているように私には読めた。
私だって小中学校の時の音楽の成績は、ずっと5だったんだけどな。

どこのブラックファミリーも、父方も母方も両方親戚一同合わせたら、その中に1人くらいは、プロ顔負けの歌唱力の持ち主が居るのではないか。
我が夫ファミリーにも居る。
歌だけなら、ホイットニー・ヒューストン並みの女性が。
親戚の「元妻」なので、血縁関係はないのだが。
しかし、ご存知の通り、「歌だけ」で成功できる世界ではないのである。
女性なら、容姿も大切なエンターテーメントの世界。
プロ根性がある人か。
ドラッグ中毒でないか、またはドラッグの誘惑に勝てる性格か。
ビジネスとして歌って行ける人か。
異性関係、金銭感覚はだらしなくないか。
色々なこと全部ひっくるめて、世で成功出来るかどうかが決まる。

我がファミリーの「ホイットニー・ヒューストン」は、痩せれば可愛いのであろうが、体格は日本の元女子プロレスラーの、アジャコング並みだ。
才能を大事にしないでドラッグ中毒になった日々もあり、リハビリを繰り返す生活で、とてもプロとしては活躍していけないだろう。
そうこうしているうちに、年もとってしまった。
大体の「素晴らしき歌の才能の持ち主」は、このように宝を腐らせていくのだ。
それが黒人社会の悲しい現実でもある。

ジェニファー・ハドソンはデビュー前、シカゴサウスサイドの教会で歌っていた。
彼女並みの歌い手も、シカゴの黒人教会を端から端まで探せば、いくらでも発掘できるだろう。
しかし、既に述べたように、スター街道を駆け上って行けるのは、歌の上手さだけじゃどうにもならないのだ。
環境が大いに恵まれていたホイットニーも、プロになってからドラッグでボロボロになってしまったが。

まあ、どの国民にも、どの人種にも「ステレオタイプ」というのが存在する。
全員が全員そんなんだと思われるのも迷惑だが、当たっている点は大いにある。
人は、その典型的なステレオタイプに出会った時に喜びがちである。
だからきっと、外国人が黒人に期待する物って、ヒップホップ的なノリであり、エディ・マーフィのようなブラックイングリッシュでマシンガントークしてくれる黒人だったりするのかも。
歌が上手かったりステップが軽やかだったりすると、「おお、さすがー」となるのだろう。

初めて会った黒人が、メガネかけて非常に丁寧な言葉遣いで話す弁護士だったりしたら、イメージが違ってガッカリしたりなんかして。
しかも彼が「僕は踊れません」なんて人だったら、「彼はブラックじゃない」「ちょっと違う」「見なかった事にしよう」ということになってしまうのだろう。
「見なかった事に」される黒人は、意外と多いのだ。
「見なかった事に」される人も、正真正銘のブラックですから。。。。ちゃんとカウントしてあげましょう。

メディアに作り上げられるイメージの影響は計り知れない。
ステレオタイプというのは、イメージの洗脳でもある。
人間と直接関わらなくても、本や漫画やテレビやウワサから覚える浅い知識である。
「歌が上手くてリズム感がある」なんていうステレオタイプのおかげで肩身の狭い思いをしている黒人は、数学が不得手で困っている日本人よりずっと多いのだ。

ステレオタイプを見るのも楽しいが、サッカーの嫌いなイタリア人男性とか、家族を大切にしない中国人とか、経済的観念の無いユダヤ人とかに会った時の方が、その民族性の多面に触れられる貴重な機会だ。

ステレオタイプでない人間を、より数多く知れた事が出来たときこそ、人はその文化をよりよく知っている、と言えるのではないか。
そして、ステレオタイプでない人間からにじみ出る「典型的な例」こそ、その国民性や民族性や県民性などの奥深いカルチャーを、物語っていると思う。

先日、テレビドラマの「Entourage」にマイク・タイソンが出演していた。
驚いた事に、スクリーンの中で彼が歌っている。
さらに驚いたのは、彼がひどい音痴だということ。
聞くに耐えられないはずれ方である。
放送禁止ギリギリの線である。
世界中の音痴が、彼の前では自信を持てるであろう。

マイク・タイソンは、類い稀なパンチ力を始め、ボクサー能力に恵まれていた。
これで美声で歌が上手かったら、世間に申し訳ないだろう。
バランスを取るために、神様が彼の音感にいたずらしたのかもしれない。

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Mami Takayama

Author:Mami Takayama
シカゴ在住のフォトグラファー&ライター。フォトグラファー的目線でブラックカルチャーを綴ります。

このブログを元に書籍化されたものが、「ブラック・カルチャー観察日記 黒人と家族になってわかったこと」となって2011年11月18日発売されます! 発行元はスペースシャワーネットワーク。
ブログの記事に大幅加筆修正、書き下ろしを加えております。いい本に仕上がりました。乞うご期待!

※当ブログ内の写真及びテキスト等の無断借用、転載は固く禁じます。

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