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シカゴからダイレクトにお届けする、知られざる黒人文化あれこれ。

Category: 知られざるブラックカルチャー
天然記念物
アメリカ人の男性は、日本人男性に比べると、アカデミー賞授賞式というものにほとんど関心が無い。その中でも特に黒人男性は、拒絶するように観ない。「あれは女性の観るもんだ」というアメリカ人が多いが、黒人は女性もほとんど興味が無い。
アメリカ中だけでなく、世界中が楽しみにしているこの映画の祭典。映画好きの黒人は沢山居るが、授賞式には関心がない。オスカーナイトは家族揃ってテレビの前で鑑賞。。。なんて光景は、白人家庭の光景ではあっても、黒人家庭では決して起こりうるシーンではない。

黒人男性に言わせると、「黒人男性でアカデミー賞を観るのは、ゲイだけである」。。。らしい。ゲイの黒人の友人は何人も居るが、確かに、彼らは授賞式について熱く語る。

うちの夫は、私と結婚してから、アカデミー賞授賞式を楽しみにして観るようになってしまった。近年は、頼まなくても、録画予約もしてくれる。そして始まると、一緒にソファで観る。一緒に受賞作品を予想したり、「この映画はまだ観てないね、良さそうだね」と言ったりしながら。女優のドレスを批評したり。。。実はそういうことが、「とてもゲイ的」なのらしい。。。黒人男性からすると(笑)

夫は元々、大の映画好きなのだから、この授賞式だって楽しいはずなのに、何故観なかったのか。。。ただ単に、「観る習慣が無かった」からなのである。ハイスクール時代はボーディングスクール(寄宿学校)だったので、部屋にテレビなんかがある環境ではなかった。勉強三昧の日々である。カレッジ時代は黒人のルームメイト、社会人になってからは従兄弟と家をシェアしていたので、生活の中にアカデミー賞なんてイベントは皆無であった。

黒人が授賞式を観ない習慣は、長年の間映画界は、完全な白人社会であったからであろう。白人以外のマイノリティー役者は、活躍しても賞を受賞出来ない冷遇システムが出来上がっていた。そんな白人だけのお祭りを、黒人が面白く思うはずもない。黒人俳優は長期にわたり、かなり映画界において貢献してきたのである。近年は改められて、黒人俳優たちの受賞も珍しくなくなったが、それでも植え付けられた「アカデミーは白人の物」という印象は、根強く残っているのである。

近年は、黒人女性では観る人が増えて来た。なぜならば、黒人女性はキラキラしたドレスが好きだから。黒人女優の進出が目立って来ているのも一因であろう。女優の髪型とかドレスとか、食い入るように見る。そして翌日、「ハル・ベリーと同じ髪型にして」なんて美容院に飛び込むのだ。

黒人男性はアカデミー賞は観ないが、グラミー賞は大抵見逃さない。
オスカーの後1週間は、白人女性たちがその話題をするのと同じように、グラミーの後1週間は黒人男性たちはその話題をする。誰のパフォーマンスがよかったか、誰の受賞は納得出来ない。。。。云々。

それから好んで観るのは、MTV Video Music Awards (VMA)と、BET Awards。
BETとはBlack Entertainment Televisionの略で、アメリカの黒人を対象にしたケーブルチャンネルで、いわゆる黒人娯楽専用番組。このチャンネルには、ほとんど黒人しか出てこない。
報道番組から映画、ドラマ、スタンダップコメディ、ヒップホップやR&Bの音楽番組にいたるまで、文字通りブラックなチャンネルである。
このVMAとBETを絶対にチェックするあたりは、白人にはない黒人的な行動である。「黒人らしくない」と言われるうちの夫でも、しっかり観る。音楽に関するからだ。その点はしっかりと、ブラックである。

実はBETは私の方が観たりする。
70年代の番組とか、日本では絶対に紹介されなかったような黒人番組も再放送でやっていて、黒人エンターテイメント史が学べる。今やハンサム俳優となった人たちにも、どんくさかった時代がある(笑) ハリウッドに進出する前の、歯並び矯正前の番組とか、黒人スターというのもいかにもハリウッド好みの顔に変身させられていくのだなあ。。。と思ったりする。
そういう意味でも、BETの再放送を観るのは面白い。いかに日本に輸出されていたアメリカのドラマや、アメリカのスターたちが、白人だけに限られていたかという事も知る事が出来る。

もう一つ、白人男性は好んでするのに、黒人男性は嫌う、顕著な事がある。
それは、植物園だとか、★★ガーデンだとか、いわゆる花や植物を観に行く行為。何が楽しいのだか、分からないらしい。「黒人男性はそんな所、絶対に行かないんだよ」と言われる。そして実際、そういう所に行っても、黒人男性に会う事はすごく稀である。

植物を見たり、花ガーデンで夫婦で歩いていたりするのは、白人家族か、アジア系だと圧倒的にインド人家族である。どんなに人の多い時でも、黒人家族に会う時はほとんどない。ごくたまに、黒人の母娘が歩いていたりするが、父と息子の姿は無い。先日も、黒人の女性と娘3人が歩いていて「珍しいな」と思ったら、お父さんは白人だった。白人のお父さんだと、やはり黒人ファミリーも来るのである。本当は、黒人女性はこういう所に来たいのかもしれないが、ボーイフレンドや夫が嫌がるから来ないだけなのかもしれない。

黒人男性が来ないのは、大きく2つの理由があると思う。
まず、白人の男性は、子供の頃から学校や家族で植物園に行ったりして学ぶ機会がある。遠足でも行く。
黒人の子供は、そういう事をしないで育つ。黒人居住区の公立学校は予算が無いので、そのようなエクスカージョンが組み込まれない。例え遠足があったとしても、候補地として父兄や教師から「植物園に」「農園に」という案は出ない。彼らは「黒人史博物館」みたいな所は決してはずさないが。

それからもう一つは、単なるテイスト。
根っからの「好み」が、白人と黒人とでは違う。黒人男性は、いくら学校遠足で行ったとしても、大人になった時に趣味には結びつかないのかもしれない。

義父はガーデンいじりが大好きで、しょっちゅう自分の庭に花や植木を植えている。花や土は、近所のガーデンセンターで買って来る。庭いじりは好きなのだが、植物園に行ったりする趣味は全く無い。花を1日見て回ったりとか、球根の種類を夫婦であれこれ見比べるとか、花や家族の写真を撮ったりとか、そういう事には興味が無い。

シカゴの近隣にミシガン州がある。ミシガン州に、毎年大規模なチューリップ祭が開催される、オランダ系移民の街がある。私は楽しみに、チューリップ村のチューリップを観に行く。もちろん夫を連れて。夫は優しいので、「ブラックマンはこんな事しないんだけどなー」と言いつつ、運転して連れて行ってくれる。毎年のように行っているのだが、毎年彼はそこで浮いてしまう。そこで唯一の黒人だから。本当に、見事に居ないのだ。黒人が!

白人ばかりの所に黒人とアジア人(私)2人だけ。。。という状況は我々は慣れているので、気にとめない事が多い(シカゴはアジア人が少ないので)。しかし、ふとチューリップ畑や風車小屋に囲まれたベンチに座っている夫を見ると、風景の中で浮き立っている。

花や紅葉の前には、白人もしくはアジア系、というのが定番のアメリカ。白髪のおじいさんとか、白人は男性でも1人で、花畑のベンチによく座っているのになあ。
花畑と黒人(男性)のコンビネーションは、アメリカでは天然記念物だ。そういう男性が居たら、それはどんなに珍しい薔薇やチューリップの種類よりも貴重である。本人たちも自分たちが天然記念物的存在であることは重々承知して、マイノリティの中のマイノリティの自覚がある。だからそーっと見守ってほしい(笑)。変だ、珍しい、と後ろ指をさされるようになったら、彼らの花畑での小さな居場所は完全に無くなり、トキのように絶滅危惧種になってしまうから。

満開のチューリップ畑を歩いている時、夫の従兄弟のトニーから電話が鳴った。

トニー「今どこに居るの?」
 夫 「Holland」
トニー「え? ヨーロッパの?」
 夫 「いや、ミシガン州のHolland」
トニー「なんでそんな辺鄙な所に!?」
 夫 「チューリップフェスティバルなんだよ」
トニー「。。。。。。」

トニーはしばらく沈黙してから、「君は今日、世界一可哀想な男だよ」と夫に言ったらしい。しかもチューリップフェスティバルの頃はいつも、NBAのプレイオフが開幕して、ほとんどの黒人男性の関心はバスケットボールにあるのだ、チューリップなんかではなくて。。。

日本ではチューリップ畑やコスモス畑、そして桜や紅葉のシーズンにも男性たちがカメラを持ってわんさか訪れる。もちろん男性一人でも三脚持って出向く。
これは黒人男性と対極の文化の例である。お国変われば、男性の行動パターンもこれほど違う。

同様に、リンゴ狩りなどのフルーツピッキングにも黒人は無縁である。
ブルーベリーさえピッキングしない夫に、銀杏拾いを手伝わせる私は、鬼かもしれない。だってシカゴは誰も銀杏を拾わないから(食べられる事を知らないので)、拾い放題なのである。夫は、銀杏を「夏の生ゴミの匂い」とのたまう。その「夏の生ゴミ」を食べる私に、彼は異文化の極地を見るのであろう。

Topic : ブログ    Genre : Blog

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Mami Takayama

Author:Mami Takayama
シカゴ在住のフォトグラファー&ライター。フォトグラファー的目線でブラックカルチャーを綴ります。

このブログを元に書籍化されたものが、「ブラック・カルチャー観察日記 黒人と家族になってわかったこと」となって2011年11月18日発売されます! 発行元はスペースシャワーネットワーク。
ブログの記事に大幅加筆修正、書き下ろしを加えております。いい本に仕上がりました。乞うご期待!

※当ブログ内の写真及びテキスト等の無断借用、転載は固く禁じます。

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